呪いをはね返す力

不思議

新居のための土地探しは慎重に行われた。不幸な出来事が多発する地域は避けたかったので大島てる氏のサイトを参考にした。私が住んでいる市にも事故物件が予想以上にあった。私が住みたいと思っていた地域をざっと調べてみると、不思議なことに炎のマークは交通量の多い道路沿いに集中している。特に昔から良くないと言われてきたT字路の突き当りとか五差路の角に悲惨な事故が起きている。大島てる氏のサイトには出ていなかったが、私が勤めていた会社の前社長が首を吊ったのも交通量の多い道路沿いの交差点そばだった。

実は一家心中とか自殺が並んでいる一帯に、私が通う歯科医院がある。この病院のレントゲンにはどこの病院でも写らなかった膿疱の影が映り、除去してもらった経緯がある。除去後も山の呪いが止むことはなかったのに、なぜこの病院でだけ悪い所が見つかって治療できたのか、ずっと不思議に思っていた。 

この病院の理事長先生というのは東京や埼玉などにもかなり大きい病院を持っていて、私が通う病院には月に一回ぐらいしか来ないので普段は院長先生が治療に当たっている。この他にも若い先生と歯科衛生士、数人の女性スタッフが常勤しているのだが、彼らは皆仲が良く、今は半年に一度定期健診で行くだけの私にも、ここの雰囲気の良さが感じられた。

どこの歯科医院でも患者に対して丁寧で親切な態度をとるものだが、心の中では患者のことを真剣に考えてくれるところなどほとんどないというのが、多くの歯科医院を渡り歩いてきた私の正直な感想だ。私の受難を「大変な思いをされましたね」といかにも気の毒そうな顔を作って、牧師のような慈愛に満ちたいたわりと同情心を見せた歯科医がいた。しかし不具合の原因がわからず、治療が一向に功を奏さないでいると「歯のお掃除をしましょう」と言い出し、治療打ち切りに移行しようとしている様子が伺われた。私が「この間やったばかりですけど」と言うと、カルテを見て「そうですね、一ヶ月前にやりましたね」と言い、しばらく黙り込んだのち無表情で「お掃除しましょう」を繰り返し、衛生士を呼んで別室に移動させられた。衛生士はクリーニングを終えると、「これから3か月ごとに定期健診のハガキを出します」と言った。ハガキは2度来て私はその都度行ったが、3度目のハガキが来ることはなかった。

また「原因はわからないけど色々試して頑張りましょう!」と言ってくれた熱意ある若い医者もいた。しかし次に行った時にはその情熱は失せていて「やっぱりインプラントを入れた病院に相談した方がいいですよ」と冷たく言われた。

ほとんどの病院が似たり寄ったりだった。原因がよく分からないので治療する気はないが、いかにも患者のことを思っている様子を見せて「何かあったらいつでも来てくださいね」と親切な言葉をかける。実に使い勝手のいい言葉だ。私は医者をあまり信用していない。しょせん医者も人間なのだ。面倒くさいことは避けて効率よく仕事をしたいのだろう。

しかし今私が通っている歯科医院は少し違う。私は最初、自分の歯が余りにも複雑な経緯をたどってきたため、一度口で説明しただけではとても理解できないと思ったので手紙に詳細を書いて送っていたのだが、それを読んだ理事長先生はその日がすでに予約で詰まっているにもかかわらず、すぐに私に連絡して来院してもらうようスタッフに指示したらしい。その日は無理だとスタッフが止めたという話を後日聞いたが、この先生は苦しんでいる患者をすぐに治してあげたいという強い熱意を持った、積極性の塊のような人だった。

この病院でやっと膿疱の存在が確認され除去されたが、また別の所にも不具合が生じるようになり、それはこの病院でも原因が分からなかった。しかし色々やってみてそれでも良くならないと、その頃は理事長先生ではなく院長先生が治療に当たっていたのだが、正直に「ごめんなさい」と謝ってくれた。今まで多くの歯科医院に通ったが、こんな風に謝られたのは初めてだった。大抵は「どこも悪くない。精神的なもの」で片付けられた。中には「人間誰だってどこかしら痛いもんだ。私だって今も腰が痛い」とつぶやく年配の医師もいた。

このようにごまかしたり逃げたりしない医師がいるというだけでも珍しいのだが、この病院ではそれに加えて歯科衛生士やほかの女性スタッフも本当に患者のことを思ってくれる人達だった。それに気づいた時、なぜこの病院でだけ悪いものがレントゲンに映ったのか分かったような気がした。

歯に異常が現れてどんどん悪くなっていた頃、私はミスを繰り返した歯科医を非常に恨んだ。しかし歯以外にも次々と異変が生じると、たとえ世界一の技術を持った歯科医でも失敗しただろう、世界一性能の良いCTでも悪いものは映らなかっただろうと理解するようになった。山の神様の呪いは非常に強力で、千キロ以上離れた所にいる人さえ動かした。市内の病院のレントゲンを操作することなどわけもなかっただろう。

ところがこの病院でだけは山の神様の力が及ばなかった。この病院自体が事故物件が並ぶ一帯に建っているのだが… どうしてそんなことが起こりえたのか。おそらく、ここで働く人達の清らかな心と、和気あいあいとした良い気が悪い気をはね返したのだと思う。以前私と同じような経験をした人がいないかネットで調べたことがあったが、その一つに悪いことが起こり続ける地域で一軒だけ何の被害も受けていない家があったことが書かれていた。どんなに強力な呪いもはね返すことは可能なのだ。強い精神的パワー、人を思う優しい心、和を愛する気持ちなどによって…

興味深いことに、この病院のすぐそばにMさんとM母と一緒に入った喫茶店がある。この店にいる時だけM母の具合が良くなり、穏やかに話すことができた。それ以外はたぶん私に憑いていた土地の神様の影響でM母は気分がすぐれず、長く一緒にいることができなかった。この店も病院と同じ原理で悪いものから守られているのかもしれない。

それから奈良県にある大神神社の砂には強力な浄化作用があるようだ。仮住まいの借家にいた時、花があまりにも早く枯れてしまうのでずっと買わずに我慢していた。しかし最後の正月は、枯れてもいいから花ぐらい飾ろうと正月用の切り花を買ってきた。菊などは本来非常に花もちがよく、2か月ぐらいきれいに咲いていることもあるのだが、この仮住まいでは1週間も持たない。前年の正月の花は5日ぐらいで枯れてしまった。それでもいいやと買ってきたのだが、なぜか1週間たっても元気で、花も葉も生き生きしている。不思議に思っていると、花瓶のそばに私が新しい土地に撒くために買っておいた大神神社の砂があった。小さい袋に小分けにされたのが5つあったので、袋のまま家の四隅とベッドの上に置いておいたのだ。その一つが花瓶のすぐそばにあり、花の寿命を普段より延ばしてくれたらしい。この時の花は1ヶ月以上元気でいてくれた。

 パワースポットとして有名で、不思議な現象も起こると言われている大神神社に厄払いを期待して行ってみたのだが、これといった効果は見られなかった。しかし何の気なしに買った砂にこんな力があるとは思わなかった。お祓いといい神社の砂といい、神道の神様にはどうやら不思議な力があるようだ。

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