お風呂は嫌い…のはずだけど

猫はきれい好きである。暇さえあればせっせと自分で体を舐めているので、体臭というものが全くない。だから嫌がるのを無理してお風呂に入れるという習慣はなかった。

とはいえ、たまに自分のウンチを踏んでしまった時とか、おしりにウンチが付いている時などは、汚れた部分だけでもシャンプーしなければならなかった。

福千代を抱きかかえて浴室に入り、シャワーの水がお湯に変わるまで待っていると、福千代はこれから自分の身に起きる事を予感して、ドアの前に行って「開けて~」と物悲しく鳴く。私は容赦なく汚れたおしりや足にお湯をかけ、シャンプーを少量つけて泡立てる。片手で逃げようとする福千代の体を押さえつけ、もう片方の手で洗うのだから、結構大変だ。もう一本手があればと思う。これを「猫の手も借りたい」というのだろうか。

猫用シャンプーは人間用と同様、とても良い匂いがする。しかし猫はシャンプー後、しっかりタオルでふいてやっても、必ず念入りに自分の毛を舐めるものだ。それが分かっているので、私も徹底的にシャンプーを洗い流すのだが、香りは福千代の毛にも私の手にも残っている。福千代の場合、シャンプーは本当にたまにしかしないので、健康被害があるとは考えにくいが、できれば香料は入れないでほしいと思う。

多くの例にもれず、福千代もこのように濡れるのが嫌いである。だから「あの時」は本当に驚いてしまった。

甘えん坊の福千代は、自分と私の間にあるドアが閉まっていると寂しかったようだ。私がたまにトイレのドアを閉めて用を足していると、「なんでドア閉めるの? やだよー、開けてよー」と鳴き続ける。だから私が入浴している間、福千代は浴室のドアの外側から「入れて~」とよく鳴いていた。鳴くたびに「まだだよ、もうちょっと待っててね」と声をかけるのだが、ある時あまりにもうるさく鳴くので、ドアを開けて浴室に入れてあげた。

私はお湯が冷めないように、バスタブの半分ぐらいまでふたをのせて湯に浸かっていたのだが、福千代はぴょんとふたの上に飛び乗ってきた。ふたの上にいれば体は濡れずにすむし、私との距離も近いのでおとなしくしているだろうと思った。

が、気持ちよく湯につかっている私としばらく見つめあった後、福千代は立ち上がってふたのふちから身を乗り出し、前足の肉球を左右交互に押すような仕草を始めた。腰が左右に揺れている。まさかとは思ったが、「福ちゃん、何してるの? やめなさい。だめだよ、そんなことしちゃ」と言うも虚しく、福千代はお湯の中に飛び込んだ。

(エエーーーーーッ⁈)と、私の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになった。

すぐに抱き上げてお湯から出すと、福千代は全身ブルブルして大量の水を辺りに飛ばした。ドアの前に行って鳴くので開けてやると、バスマットの上で濡れた毛をしばらく舐めていた。

猫、特に若い猫は本当に思いがけない行動をする。湯気でお湯が見えなかったのだろうか。それともお湯に入れば濡れるということが分からなかったのだろうか。謎である。

これ以降、バスタブへのダイブは二度とやることはなかったが、ドアの向こうから「入れて~」と鳴くのは変わらなかった。入れてやっても濡れるのがいやですぐに出たが、バスマットの上で私があがるまでずっと待っていた。

そんなに私と離れているのがいやなのか。ほんの少しの時間なのに… そう思うと福千代が愛しくて愛しくてたまらなかった。

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