土地の呪い その5

不思議

土地のお祓いは近くの神社の宮司さんに頼むものなのだろうと思って何社か電話をかけてみたが、どこも出ない。神社本庁に問い合わせると、私が住んでいる地域の神社数社は一人の宮司さんが管理していて、その方は普段県内の大きい神社に常在しているという。そちらの神社の番号を教えてもらって連絡を取り、事情を話して翌週来てもらうことになった。

この電話での取り決めは仕事が休みの日の午前中にしたのだが、なんとその日の夜、不動産屋から家の購入申し込みがあったという電話を受けた。驚いたのはさらに2日後、購入希望者がもう一人現れたというのだ。まだお祓いはしていないのに、取り決めただけなのに、何という即効性。結局2番目の人に売ることになったが、不動産屋はなるべく早く契約したいようで、次の日曜日はどうかと聞いて来た。しかしそれだとお祓いより前になってしまう。一瞬、もうお祓いはしなくてもいいのではないかという考えが頭をよぎったが、お祓いをキャンセルしたら契約もキャンセルされるかもしれない。いや、それより恐ろしいのは売ってしまえばもうお祓いをすることは永久にできなくなる。もしかしたら一生後悔することになるかもしれないと思った。私は日曜日は予定があると言って断り、次の休みの日に契約することになった。

お祓いの当日、山の家にやって来た宮司さんは簡単な挨拶をすると、家が売れたかどうかを聞いてきた。お陰様で3日後に契約することになりましたと答えたが、私は不思議に思った。売りに出して2年近くたつのに一向に売れる気配がないと電話で話してから、まだほんの1週間だ。普通ならそんな短期間で状況は変わらないと思うはずだ。大きな変化があったことを、何か特別な力で察知したのだろうか。

リビングに祭壇を設け、お供え物をしてお祓いは始まった。最初の方で宮司さんは「これから神々をお呼びします」と言って、朗々と響く声で「オォォーオォォーオォォー」と唱え始めた。それから祝詞が続き、私は作法など全くわからなかったが神妙な面持ちで頭を垂れ、宮司さんに合わせて何度も何度もお辞儀した。

リビングで一通りのことをやると、階段を下りて2つある部屋をそれぞれ簡単にお祓いした。その後外へ出て玄関の前と正面に向かって右の角と左の角、そして外階段を下りて1階の右の角にお米とお酒を少し撒いてお祓いした。次に裏口の前に移動して同じようにお祓いしたのだが、この時プーンと歯周病特有の臭いがした。私は初め宮司さんの口臭かと思ったが、それまで全く臭いなどしなかったのに急に臭うのは変だった。この裏口は例の加齢臭がした場所、床がへこんだ場所、私が死体でも埋まっているんじゃないかと思った場所の60センチ位前にあった。(やっぱり何かいる?)と思った。次に左の角でお祓いをした時、駐車場でお祓いした時は全く臭わなかった。

家の中に入り、再びリビングで祝詞を上げた。最後に宮司さんは「神々にお帰りいただきます」と言ってあの「オォォーオォォーオォォー」をもう一度唱えた。この時またあの口臭がした。

この家にはやはり土地の神様とは別の、人間の霊、たぶん年配の男性がいたのだと思う。床下に埋められていたのか床の上にいたのかは分からないが、土地に縛られていて、ゲーム機の音を鳴らすなどして自分の存在を訴え、私に助けを求めていたのではないだろうか。そしてこのお祓いによって土地の呪縛から解放され、宮司さんの言葉を借りれば“神々がお帰りになる”時に一緒に連れて行ってもらったのではないかと思った。私はスピリチュアルな能力など全くないので、なんとなくそんな気がするといった程度で、あくまで推測の域を出ないのだが。

お祓いが全て終わると、片付けをしながら宮司さんはこの別荘地には何度か来ていると言った。私は「それは家を新築する時とか中古で買った時ですか?」と聞くと、「みんな住んでしばらくたってからです」という答えが返ってきた。

やはりそうなのだ。うちだけではない、この別荘地全体が呪われているのだ。住んでしばらくたってから家のお祓いをするということは、私と同じように山に来てから悪いことが次々と起こり、もう偶然では片付けられないという結論に達したからだろう。斜向かいに住んでいたNさんも、東京に引っ越すとすぐに足の痛みが嘘のように消えたと話していた。そういえばNさんは山にいた間、怪我をすることが多かった。ある時など階段の一番上で突然意識を失い、一番下まで転落して何時間も倒れていたそうだ。幸い全身の打ち身だけで大きな怪我はなかったが、Nさん宅の数軒先の家では住人が転落死している。私が引っ越してくる少し前の話だ。

この別荘地には首都圏から定住する人が次々と引っ越してきたが、大抵数年でまたどこかへ引っ越していった。私より後から来て私より先に出て行った人もいる。きっとこの土地に良からぬものを感じたのだろう。

とにかくやるべきことはやった。3日後の契約が済めば全てが良くなるだろうと思って気分は晴れ晴れしていた。

タイトルとURLをコピーしました