土地の呪い その2

不思議

斜向かいのNさんによると、私の前にそこに住んでいたのは高齢のご夫婦と息子さんで、最初は3人とも元気だったという。ところが引っ越してきてすぐ奥さんは転んで怪我をし、車椅子の生活になったらしい。この奥さんと息子さんは仲が悪く、激しい怒鳴り合いの声がしょっちゅうNさんの家まで聞こえてきたという。3人で住んでいた期間は短く、息子さんはすぐに家を出たそうだ。ご主人はかいがいしく奥さんの世話をしていたが自身もガンになり、まだ7,8年しか住んでいない家を売りに出して引っ越していった。ご主人と親交の深かった近所の人の話では、家が売れたあと程なくして亡くなったという。

高齢者がガンになるのも歩けなくなるのも、親子の仲が悪いのも別に珍しいことではない。しかし次の入居者である私の身に次々と起きたことと考え合わせると、やはり何か家や土地に問題があるのではないかと思うようになった。

その家は建売住宅だった。設計図面と少し違うところや手抜き工事と思えるところが何ヵ所かあり、この分では地鎮祭などやっているはずもなかった。しかし住んでしばらくたってから何か儀式めいたことをするのも変なので、毎日心の中で土地の神様らしき存在に祈っていた。たくさんの樹木を伐採し、土地を切り開き、勝手に家を建てたことの謝罪と自分がそこに住むことの許しを真剣に求めた。

しかし数ヶ月それを続けても状況は一向に改善されなかった。それで考え方を少し改めることにした。自分がやっていないことを謝れば、それをやったのは私だと誤解されるかもしれないと。それである日「ここに家を建てたのは私ではありません。私は何もしていません。ただ引っ越してきただけです」と何度も言い続けた。するとその夜、激しい胸の痛みに襲われた。どんなに体勢を変えても苦しみは増すばかりで少しも良くならない。直感的に昼間私が言い続けたことへの怒りだと思った。以前江原さんが「霊は音を嫌うので柏手を打つと消える」とテレビで言っていたのを思い出し、相手はそこら辺の霊とは違うが苦しくてどうにもならないので、試しにパン!パン!と柏手を2回打ってみた。痛みは一瞬で消えた。

このあと就寝中の胸の痛みは何度か経験し、おそらく半分は心疾患によるものであったと思われるが、この時の痛みは霊的なものだったと思う。でなければ手を打っただけで痛みが消えるはずがない。

それからは謝罪の祈りも言い訳も、どちらもやらなくなった。相手はとにかく怒り狂っているのだ。理屈など通用しない。何をやっても無駄だと思った。

この荒れ狂う霊は土地の神様と呼ばれる自然霊ではないだろうか。今まで誰も足を踏み入れたことがない土地に、人間が勝手にずかずか入り込んできたのだ。はるか昔からそこにいた神様にはきっと許せないことだろう。

それからこの神様とはたぶん別の、もっと人間に近いものの気配を感じることもあった。

まだ学生だった頃、私は友人から手のひらサイズのゲームをプレゼントされた。もらった当初は毎日のように遊んでいたが、電池が切れると机の引出しにしまいっぱなしになっていた。それから20年以上たったある日、問題の山にいた時のことだが、引出しの中から懐かしいゲーム音が聞こえてきた。「♪チャララーン、ピッピッピッ……」という、ゲームの始まりの音と、ゲームの中の猿が歩く音だ。私は驚いてゲームを取り出した。とっくに電池が切れていたはずなのに、しかも触っていないのに、どうして鳴り出したのだろうと不思議だった。電池が切れて遊べなくなってから私は何度も引越して住居を替えたが、どの家でもこんなことは起こらなかった。

ゲーム機はそれから頻繁に鳴るようになった。多い時は週に2度。まるで誰かが自分の存在をアピールするかのようだった。私は(ゲーム機の状態が今“オン”になっているんだ。“オフ”にすれば鳴ることはないはず)と思ってオフボタンを一度押した。

数日後、引出しの中からジジーという、電源を入れようとしている音がした。それは10秒ぐらい続いた。次の日も同じ音がして10秒ぐらいでやんだ。そのまた次の日も同じことが起きたが、今度はくるしげな「ジジーッ」から「チャララーン」というゲーム音に変わった。何が何でも電源を入れてやるという強い執念のなせるわざだ。これ以降ゲーム機は沈黙するようになった。おそらく目的を十分に果たしたからだろう。

これが怪奇現象と言えるのかどうか分からないが、私は恐怖をまったく感じなかった。“土地の神様”の敵意に満ちた攻撃と比べれば、無害でかわいいものだ。しかし誰かが自分の存在を訴えたくてこのような現象を起こしているのだとしたら、それは一体誰なのだろう。何のためにやっているのだろう。

実は1階の廊下のある地点で加齢臭のような臭いがすることが度々あった。最初は自分の臭いなのだと思ったが、そうであればもっと長時間いる部屋でも臭うはずだ。しかしその臭いは廊下のごく狭い範囲でしかしないのだ。一瞬(もしかしてこの下に死体でも埋まってる?)などと考えたが、そんなドラマみたいなことが現実にあるはずはなく、気にはなってもそれほど真剣に考えていなかった。

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