メルカリを始めたら

生活

私は引越が多かったせいもあり、使わなくなった日用品や着なくなった洋服などは結構処分している方だが、頂き物で未使用の物やあまり使用せずきれいな状態の物はもったいなくて捨てることができなかった。リサイクルショップに持っていけば(嘘でしょ?)と思うぐらいの安値しかつかないのでそれもせず、噂に聞くメルカリというものをやってみようかと思いながらも、最近は新しいことを始めるのが億劫になってしまい、(そのうちに)と思っているうちに数年が過ぎてしまった。しかし食器棚や押入に眠る不用品を見るたびに気分がどんよりし、今月初めようやく重い腰をあげてメルカリを始めることにした。

経験がなくても今はネットで何でも調べることができるので、気力さえあれば大抵のことは始められる。登録の仕方から出品の仕方まで、たくさんのサイトや動画が丁寧に教えてくれるので順調に進んでいったが、引っかかったのが配送方法。「ゆうゆうメルカリ便」や「らくらくメルカリ便」を使うとお互いの住所や本名を知られずに発送できるので多くの人がこれを利用しているようだが、そのためには発送の段階で画面に出てくるバーコードを持ち込み先のコンビニなどで読み取ってもらわねばならない。私はスマホを持っていないのでやはり無理かと心配になり、調べてみると私と同じ不安を抱えた人がヤフー知恵袋か何かで「スマホがないとらくらくメルカリ便は使えませんか?」という質問をしていた。「スマホがないと無理」と断言する回答者もいたが、バーコードを印刷したものを持っていけば大丈夫と言う回答もあり、こちらの方が信用できそうなのでらくらくメルカリ便での発送に設定して出品した。

次の日メルカリからのお知らせに「○○さんがあなたが出品した○○にいいね!しました」とあった。なぜメルカリにいいね!があるのかわからない。いいと思ったらさっさと買えばいいではないか。次のお知らせでは「いいね!がついた○○を10%値引きして売りやすくしてみましょう」とある。出品したばかりで値引きなんて冗談じゃない、余計なお世話だと憤慨したものの、やはり気になってメルカリにおけるいいね!の意味を調べてみた。

購入者にとっていいね!は色々便利な機能があるようだ。ブックマークのように気になっていた物を後から探す手間が省けたり、それが値下げされた時などに通知が来るので購入のタイミングを計ることができるらしい。

いいね!を付けながら購入しないのは、それが値下げされるのをじっと待っているからなのか? それなら値下げしない限り売れる可能性は低いと考え、メルカリの勧めに従って10%値引きしてみた。すると即コメントが送られてきた。「○○○◯円だったら購入します」という内容だったが、あまりにも安いので丁重にお断りした。すぐに別の人から「いくらかの値引きは可能ですか?」というコメントが来たので「○○○○円ではいかがですか」と返信したところ取引が成立した。確かに値引きの効果は大きい。

翌日梱包をしてセブンイレブンに荷物を持ち込み、「らくらくメルカリ便でお願いしたいんですけど、これでもいいですか?」と、おどおどしながらバーコードを印刷したものを見せた。店員さんは「大丈夫ですよ」とにっこり笑ってバーコードリーダーをピッと鳴らし読み込み成功。一番心配していたところがクリアできて心の中で(よっしゃー!)。次に「左の画面をタッチしてください」と言われて画面の「はい」のところをタッチ。レシートのようなものと透明な袋状のフィルムを渡され、レシートを袋に入れて荷物に貼るように言われる。これもユーチューブで確認していたので戸惑いはなかったものの、老眼が進んだ目には透明な袋のどこに切り口があるのかまったくわからず、見当違いのところを必死で開けようと悪戦苦闘。見かねた店員さんが「やりましょうか?」と言ってくれたのでおまかせしてレシートを袋に入れてもらい、私は袋の裏紙をはがして荷物に貼ることだけやった。初回なのでこのような不手際もあったが、全体としてはスムーズにいったと思う。家に帰って発送通知をし、相手からの受け取り通知が来たらお互いを評価して取引完了。送料と10%の手数料が差し引かれた売上金は好きな時に請求すれば振り込まれるらしい。

次に出品したものも無事に売れて嬉しかったのだが、メルカリではどうもコメント欄を使って値引き交渉をするのが通例になっているようだ。値引きしたくない人はその旨を商品説明欄に載せている。私もできれば値引きなしで売りたいのだが、値引きしないと売れないのであればやむを得ないと考えているので最初から値引き不可の表示は出していない。そのため出品期間中はコメントが来ていないか頻繁にパソコンを開いてチェックしなければならない。しかし私のパソコンも購入して10年ぐらいたち、電源ボタンを押してからネットにつながるまで結構時間がかかる。コメントチェックのためにパソコンを立ち上げるのも億劫になってきた。(スマホがあればらくなんだろうな。バーコードも印刷しなくて済むしな…)という考えが浮かぶようになった。

私は昔から新しいものには飛びつかない。巷で大いに流行ってみんなが持っていても自分に必要なければ欲しいとは思わない。必要かな?と思ってから数年後にやっと購入するぐらいに遅いのだ。携帯電話というものを初めて持ったのもわずか5年前だ。引越が決まった時、新居で固定電話が使えるまで1ヶ月かかると言われてやむなく契約したのだ。私は通勤で車を使っていたので万が一事故に遭った時携帯がないと不便だなと思いながらも、起こるかどうかわからない万一の時のために毎月使用料を払うのはもったいないとしていた。それに携帯というものは緊急でなくても相手が仕事中であろうともお構いなくかかってきて、仕事とプライベートの区別をなくしているという悪い印象があったので、使う気になれなかった。しかし回線工事が引越の1ヶ月後になると聞けばいやでも携帯を持たざるをえない。特に引越直後は用事が多くあちこちに電話をかけなければならないのだ。

かくして世の中の大半がスマホを使っている時代、ガラケーが恥ずかしくなっている時代に私は初めてガラケーを持つことになった。ソフトバンクの店舗で長い長い説明を受け、緊急の時以外ほとんど使わないと思ったので一番安い料金プラン、初心者に良さげな「かんたん携帯」という機種を選んだ。しかしこの簡単であるはずの携帯も私にはわからないことが多かった。電話をかけたりメールを送ったりといった基本的な操作しかしなかったので不便は感じなかったが。だからスマホに変えるなどという発想は全くなかった。ガラケー、しかも高齢者向けとおぼしき「かんたん携帯」でさえ使いこなせていない私がスマホなんて無理だろう、豚に真珠だ、猫に小判だ、必要もないとずっと思ってきた。ソフトバンクのCMでお父さん犬が「俺は絶対スマホにしないぞ」と言うたび「そうそう」とうなずいていた。ところがメルカリを始めて思いがけずスマホの必要性が出てきたのだ。

月々の使用料を考えてみた。最近はテレビで格安スマホのCMがよく流れているが、あまり意識して見たことはなかった。インターネットのプロバイダーから「ネットとスマホはセットがお得」というメールが来ていたのを思い出し、改めてちゃんと読んでみると3GBで月々760円(税込み)とある。今のガラケーの使用料より1000円以上も安い。スマホも他社からの乗り換えだと半額ぐらいになっている。楽天モバイルなどのいくつかの事業者と口コミも含めて比較してみたが、やはり私が契約しているプロバイダーが一番安く、特に問題点もなさそうなのでこちらに乗り換えることにした。乗り換えの手順もネットで調べて家にいながら全部済ませることができ、新しいピカピカのスマホも届いた。

スマホ操作の基本中の基本がわからなかったので初心者用の本を買って読み、細かいことはユーチューブで調べると、とりあえず必要な操作はできるようになった。スマホは難しいという先入観があったが、やってみるとパソコンのようで私にとってはガラケーより簡単に思えた。ガラケーの場合、いくら矢印を押しても目的のボタンに行かないことがあったが、スマホは目的のものをタップするだけで必ずそこに行くので単純明快だ。またメルカリからのお知らせが来ると音が鳴るのがありがたい。不必要にパソコンを開けたりスマホを見ることがないので時間の節約になる。

セブンイレブンで「らくらくメルカリ便でお願いします」と言ってスマホのバーコードを見せた時、自分が文明人なったようで何だか嬉しかった。ガラケーで満足していたはずなのに、スマホなんて全然欲しくないと思っていたはずなのに、この高揚感は一体なんなのだろう。楽天でかわいいスマホケースを長々と選んでいる時、なぜ私はウキウキしているのだろう。私という人間は自分が思っているよりずっとミーハーなのだと知った。

メルカリを始めてすぐ1000ポイントの進呈があり、これは確か1週間ぐらいの期限があったので何か買わなければ損だと思い、かねてより買い替えを考えていたオーブンレンジを買うことにした。それまで使っていたのは20年前に製造されたもので、レンジ機能には何の問題もなかったが、パンを焼くようになってからは焼き色がほとんどつかないとか、ハード系のパンを作っても表面があまり硬くならず、時間が経つとフニャフニャになってしまうなど、オーブン機能に少し不満が出てきたのだ。一度家電量販店に足を運んだが、スチーム機能がついたオーブンレンジは安いものでも4万円近くもするので買い替えは見送っていた。

それまで中古で買うという選択肢はなかったのだが、メルカリに出品されたものを見ていると短期間しか使用されていないものが多く、大半はきれいな状態だ。しかも新品の半額以下。メルカリ初心者の私は値切るということはせず即決で2018年製の日立のスチームオーブンレンジを購入した。送料込みで18600円、ポイントを使って17600円だ。程なく届いたオーブンレンジは中古とは思えないほどきれいで、傷も汚れも見られなかった。翌日早速パンを焼いてみたが、しっかり焼き色がついて表面は見事にカチンコチンに硬い。以前のものより一回り大きいので一度にたくさんのパンやお菓子を焼くこともできる。

メルカリを始めて約1ヶ月。まだ買ったもの1点、売ったもの3点だが、おかげで物が片付いて気分は晴れ晴れし、ハード系のパンが食べられるようになり、月々の携帯使用料は半額以下になった。一番嬉しいのは、家で使われることなく眠っていた物たちが嫁入り先で重宝され、本来の任務を全うできるようになったことだ。きっとこれらの物たちも喜んでいることだろう。

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