ふみふみ

ねこだいすきさんによる写真ACからの写真

多くの猫に見られる“ふみふみ”。毛布などの柔らかいものの上に乗ると、前足を左右交互にクイクイ押し付ける、あの特有の動きだ。あれをマッサージだという人も少なくない。疲れた飼い主をいたわっているのだと、嬉しそうに話す方もおられる。

確かにあの動きはマッサージによく似ている。猫は人間が思っている以上に飼い主思いなので、最初は違う意味で始めたふみふみが、飼い主にマッサージだと誤解され、「えらいねー、ありがとねー」などと喜ばれると、そのうちに飼い主のためにマッサージとしてやるようになった子もいるかもしれない。

しかし元々は母乳を飲んでいた時のなごりで、柔らかな感触が母猫を思い出させて、あの動きをするのだと私は思っている。千歳のふみふみは明らかにそれだった。

千歳は毎朝、私の首のあたりにかかっているタオルケットをふみふみしながら、同時にちゅぱちゅぱ吸っていた。私はタオルケットが唾液でびしょびしょになるのが気持ち悪かったので、代わりにガス屋さんがくれたタオルを与えたが、見向きもされなかった。

感触が同じなのになぜタオルはいやなのか? まさか「〇〇商店」という名前が入っているのが気に入らないというわけではないだろう。もしかして私の匂いがついていないとだめなのか? そこで私はタオルを一晩お腹に巻き付けて、匂い付けをしてみた。そして翌朝、千歳がタオルケットをふみふみし始めると、そのタオルをサッと千歳の口に持っていった。千歳の動きが一瞬止まったが、何事もなかったように、タオルでふみふみとちゅぱちゅぱを続行した。

作戦は成功だ。そのあとはタオルを枕の右に置いて、そこで心ゆくまで「ふみちゅぱ」をやってもらった。しかし対象をタオルに変えると、千歳はやる気が失せたわけではないのに、途中でやめるようになった。中断した時は必ず私の顔に近づき、私をじっと見つめて前足で私の頬に触れ、それからタオルの所に戻ってふみちゅぱを再開した。何度も何度も私を振り返りながら… これは私の母性本能を大いに刺激した。千歳は私をお母さんだと思っているのだ。千歳が可愛くて可愛くて、胸が苦しくなるほどだった。

このやり方を見ると、ふみふみは母乳がたくさん出るように母猫のお腹を押したなごりであることが理解できる。千歳のようにふみふみとちゅぱちゅぱがセットになっている場合は、完全に赤ちゃん返りしているといっていいだろう。甘えたい気持ちが非常に強くなっているのだ。

福千代も毎日のようにふみふみした。その対象は、やはり私が使っている毛布やタオルケットだった。千歳と違ってちゅぱちゅぱはしなかったので、よだれでびしょびしょになることはなかったが、前足をふみこむ時に爪が出るので、毛布は毛が抜けてボロボロになり、タオルケットは糸がほつれて悲惨な状態になってしまった。

しかしこの幼児性が抜けないというのも、猫の大きな魅力の一つだ。どの赤ちゃんも可愛く、守ってあげたいと思わせるのと同じで、いつまでも幼さを感じさせる猫を、人は守り、愛さずにいられないのである。

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