猫に赤ちゃん言葉

猫に話しかける時、赤ちゃん言葉になる人がいる。若い女性が使うなら、それほど違和感はない。しかしもっとお年を召した方が「~でちゅねー」などと言う様は少し異様に思えた。自分が猫を飼うまでは…

猫と暮らし始めると、無意識のうちに「ごはんにちまちょーか」だの「おねむでちゅか?」などと口走っているのに気付き、思わず吹き出してしまった。ああ、やはり私もこうなるのかと驚く。

だが改めようとは思わなかった。人に聞かれたら「ばかじゃないの」と思われるのは分かっている。しかし猫を溺愛すること自体には、私は何の羞恥心もない。相手が人間であろうとなかろうと、誰かを深く激しく愛するというのは素晴らしいことだ。赤ちゃん言葉は愛情の表れ。人がいる時はうっかり口から出ないよう気をつけたが、二人(一人と一匹)だけの時は、はばかることなく使った。

自分が猫への愛に溺れていると認識するのは心地良かった。

また通常では付けない名詞の前に「お」を付けることが多くなった。「今日は(注射に行きましょうね」とか「福ちゃんは外が好きだね」等々。なぜ「注射」に「お」を付ける必要がある?と、人は思うであろう。私にも分からない。

しかし年月とともに赤ちゃん言葉は減っていった。福千代も老齢期に入るとあまり遊ばなくなり、落ち着いてやんちゃをしなくなったので、福千代を「赤ちゃん」とは見なさなくなったためかもしれない。かわりに福千代の優しさや不思議な知性を知ると、自分と対等の存在と見做すようになり、「今日は何を召し上がりますか?」とか「お皿もう片付けてもいいですか?」などと敬語も混じるようになった。

櫛でノミ取りをしている時、お腹の触られたくない場所に櫛が行くとよく怒られたが、そんな時私は「すいません、すいません」と謝るのだった。

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