土地の呪い その4

不思議

引っ越してあの家を出ただけでは呪われたままであることは分かっていた。悪いことが起こり始めたのはあの家に住んでからではなく、引越の1ヶ月以上前、売買契約の直後からだった。所有者が私である以上、災いを逃れることはできないのだ。だから一日も早く売ってしまいたかった。

リフォーム業者との打ち合わせで、当初はやる予定のなかった1階廊下の床の張替を最初にやることになった。私は床をめくって、もし動物の骨でも出てきたら連絡してほしいと、携帯番号を教えた。出るとしたら本当は動物の骨などではなく、人骨だろうと思っていたのだが、さすがにそれは言えない。業者はおかしなことを言うと思ったかもしれないが、何も追及せずただ「分かりました」とだけ言った。

リフォーム初日、(今頃床をはがしてるかな)と思っていると携帯が鳴った。骨が出てきたかと思って見ると、リフォーム業者からではなく非通知だった。少し躊躇したがリフォーム関係のような気がして、「もしもし」と出てしまった。しかしザーザーという雑音がするだけで返答がない。私は何度も「もしもし」と言ったがやはり雑音以外聞こえない。電波が悪いようなのでしばらく無言でそのままにしていると、「○○かい?」と言うおじいさんの声がかすかに聞こえた。声は非常に遠く、普通に電話でしゃべっているというより、ラジオを聴いていたら関係のない無線電波を拾ってしまったという感じだった。“○○“は聞き取れなかった。私はもう一度「もしもし」と言ったが、電話はすぐに切れてしまった。

夜、工事の報告でリフォーム業者から電話があった。何かの骨が出てきたということではなく、床板をはがすのに非常に時間がかかったということだった。普通は釘で打ち付けるので接着剤は補助的にしか使わないのだが、あの家ではなぜか大量の接着剤がべっとり付けられていて、全部はがすのに夜までかかったという。床下の土は乾いていて、木はそれほど傷んではいなかったそうだ。 

工事が完了した後確認のため見に行くと、張り替えた床材がカタログで見た色と全然違っていた。業者は間違いなく私が選んだものを発注したと言うが、どう見ても違う色だった。自分の落ち度ではないので、やり直すなら別料金を請求すると言う。余計な費用はかけたくなかったので、そこはもういじらないようにした。

しかし吹き抜けの壁と天井のクロスが逆に張られていて、これは業者も間違いを認めざるをえなかった。やり直しをすることになったが、職人が次の現場に取り掛かってしまったので、それが終わってからの作業になり、しばらく待たなければならなかった。 

その後、別の業者にリビングの日に焼けて表面がはがれているフローリングの修理を依頼した。ネットで施工例を見ると、修理した跡が全然わからないぐらい自然な仕上がりだったので頼んだのだが、実際は施工した所だけ木目も艶もなく、いかにも上から塗料を塗ったのがバレバレで、水拭きするとぞうきんに茶色い塗料が少し付いた。数日後もう一度来てもらって、あまりにもひどい所は塗料を少し拭き取ってもらった。やらない方がよかったが、今更言ってもどうしようもなかった。どうせ値下げするのだし、とにかく早く売ってしまいたかったので妥協することにした。

あの土地は北斜面なので春と夏はまあまあ日が当たるが、秋から冬にかけてはあまり日が射さないので、秋になればますます売れにくくなる。さっさとリフォームを終えて不動産屋に値下げ申請をしたかったのだが、5月の初めに終わる予定がトラブル続きで1か月以上遅れてしまった。あまり満足のいくリフォームではなかったが、とりあえず終わったので不動産屋に電話しようと思った矢先、今度は庭がメチャクチャになっていた。

土砂崩れが起きたのかと思ったほど、岩がいくつも下に転がり落ちて土砂が砂利の上に流れ落ち、階段は壊れてレンガがひっくり返されていた。今まで何度かお世話になった造園業者に来てもらうと、イノシシの仕業だと言われた。9年間そこに住んでいたが、イノシシに狙われるようなものを植えなかったので被害にあったことは一度もなかった。それなのにどうしてこれほど荒らされてしまったのか、理解に苦しんだ。

元の状態に戻してくれるよう、業者に依頼した。いつもはすぐにやってくれるのだが、その時は忙しかったらしく、見積もりを出すだけで10日もかかった。着工まではさらに待ち、着工の報告を受けてもなかなか終わらなかった。いくらなんでも遅すぎると思って見に行くと、誰もいない。工事は少し手を付けただけでほったらかしになっていた。その夜業者に電話して、いつになったら終わるのかと問い詰めると、「あと1週間で終わらせます」と言われた。その言葉通り、確かに1週間で完了報告の電話があったが、行ってみると、そのずさんさに驚いた。以前やってもらった時はとても丁寧で誠実な仕事ぶりだったのに、人が変わったみたいに雑なやり方だった。もう人に任せられないと思い、休みの日に自分で庭の整備をした。完全に元通りにはならなかったが、ある程度やった段階で不動産屋に電話して、リフォームが終わった報告と価格変更の依頼をした。5月初旬にするはずだった電話は10月になってやっとできた。もうすでに秋になっていた。

それから1ヶ月ぐらいたった頃、不動産屋に問い合わせは増えたかと聞いてみたが、ほとんど変わらないと言われた。リフォームしてきれいになった上、かなり値段を下げたのに何の変化もないとは、がっかりだった。

ある晩夢で亡くなった祖母が出てきて、こう言った。
「やっぱりこの家おかしいよ」
翌朝、私は決心した。これまで何度か頭をよぎったものの、大袈裟すぎるような気がしてためらわれてきたことを実行しようと。
お祓いである。

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